研究内容

皮膚マイクロバイオーム解析と疾患制御

 われわれの身体には100兆もの微生物があらゆる部位に常在しており、これを「マイクロバイオーム(微生物叢)」と呼びます。マイクロバイオームは、ヒトの免疫機能の維持や必要な栄養素を生合成するなど、ヒトの健康増進のための有益な環境を提供しながら、ヒトと巧緻な共生関係を構築しています。ところが、何らかの要因によりこのバランスが破綻すると疾患へと進展していくことがあります。

 現在、皮膚マイクロバイオームが増悪因子となるアトピー性皮膚炎や尋常性ざ瘡などを研究対象としていますが、これらの疾患は皮膚マイクロバイオームのバランスの破綻に伴う多様性低下により特定の菌が優位となる皮膚炎です。例えばアトピー性皮膚炎は、黄色ブドウ球菌が優位になった疾患と表現することもできます。従って、微生物社会の秩序を整える、つまり健全なマイクロバイオームへと再構築することで疾患制御を行うことには合理性があります。これを応用し発展させたものが、健常な微生物を患者に移植することで多様性を高める「皮膚マイクロバイオーム移植療法」です。「微生物をクスリ」として考えるこれまでにない新しい試みです。

アトピー性皮膚炎は皮膚マイクロバイオームのディスバイオーシス(社会集団の破綻)により引き起こされます。患者皮膚では、健常人にはほとんど存在しない黄色ブドウ球菌が優位になり、皮膚上の受容体を介してその情報が細胞内に伝達されることによりかゆみなどが誘発されます。皮膚マイクロバイオーム移植による皮膚炎の治療イメージ
A.健常なマイクロバイオームを患者に移植してディスバイオーシスを是正することで、健全なマイクロバイオーム社会を再構築します。B.移植後はマイクロバイオーム社会集団の多様性が増し健全な社会が形成されます。
 



最近のトピックス:男性型脱毛症にマイクロバイオームが関与するのか?

 男性型脱毛症(Androgenetic Alopecia, AGA)は、思春期以降に始まり徐々に進行する男性型脱毛症です。AGAの発症には、男性ホルモンや遺伝的要因が関与することは知られていますが頭皮環境も原因あるいは増悪の要因ではないかと考えました。そこで、AGA群と非AGA群の頭皮マイクロバイオームを網羅的に調べたところ、細菌ではCutibacterium属菌、真菌ではMalassezia restrictaがAGA群でより優位でした。これらの微生物は増殖に皮脂を好む性質があります。そこでさらに頭皮の皮脂組成を分析したところ、AGA 群では皮脂中のトリグリセリドの比率が高いこともわかりました。今後、これらの菌種とAGAとの関わりについて研究を進めていきます。

AGA群ではCutibacterium属、Staphylococcus属の割合が増加し,Corynebacterium属の割合が低下した。AGA群では,Malassezia restrictaの割合が増加していた。



関連論文

Suzuki K., et al., Microorganisms, 9, 2132, 2021

Suzuki k., et al., Microbiol. Immunol., 66, 350-352, 2022