1 私は、令和2年4月1日(水)から4年間の任期で第8代学長を務めました。振り返ると、着任早々の4月7日(火)に政府は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に新型コロナウイルス感染対策として緊急事態宣言を発出し、4月16日(木)には対象を全国に拡大しました。学長就任に当たり、学生の姿が見えない閑散としたキャンパスを眺めながら、執行部の面々と対策を協議した事を思い出します。100年に一度とも言われる高病原性ウイルスによるパンデミックの時期に、医師資格を持つ私が学長の責務を負う事になった巡り合わせを感じました。その後3年間に渡り、私はコロナ禍の中にあっても学生が学びを継続できるよう、教職協働で全力を注ぎました。任期最終年度にあたる令和5年春に、新型コロナウイルス感染症は感染症法上第5類感染症に位置づけられ、私の任期の中でのコロナ禍は一区切りが付きました。 今振り返ると、コロナ禍により、日本の大学教育に否応なく未曾有の変化が生じました。中世欧州に大学が発祥して以来、伝統的な教育形態であった集合教育はオンライン教育とのハイブリッド形態に切り替わりました。平時であれば、資金的な課題や教員のオンライン教育への心理的な抵抗感により、少なくとも10年間は要したであろう大学教育のDX化が、わずか1年間で達成されたのです。本学ではオンライン教育環境整備のために、教学組織・理事会・明薬会と後援会の4者が一体となって募金活動を実施し、その浄財がDX化事業の助けになりました。また、教育コンテンツのDX化も、教員の多大な努力により短時間で達成されました。学生と教職員の感染防止のための新型コロナワクチンの職域接種実施に際しては、医療職免許の有無を問わず、全学教職員が一丸となった協力体制が実現しました。これら非常時の団結力には、改めて本学の底力を感じた次第です。 さて、コロナ禍の最中で学業に励んだ学生諸君は、第107回と108回の薬剤師国家試験において、ストレート合格率第1位(私立薬系大学中)の栄冠を2年連続して獲得しました。教職員として、これほど喜ばしいことはありませんでした。また、薬学科においては入学定員を60名増員し、2006年の6年制薬学教育開始以前と同じ360名となりました。また、本学では他学に先駆けて地域枠入試制度(定員10名)を開始しました。初年度は薬科大学が無い県、2年目はこれらに加えて厚生労働省が発表した薬剤師の偏在指数学長 越前 宏俊が1未満の県に在住している高校生を対象として、卒業後9年間、出身県で薬剤師として勤める事を条件として、学費相当金額を6年間奨学金として支給する制度です。選考は大学入試共通テストの結果に基づいて行われ、志願倍率は初年度4.3倍、2年目8.0倍と大変高く、本学の薬剤師偏在解消に対する姿勢が社会に高く評価されたものと考えています。以上のように、第一期の任期は瞬く間に終わったと言うのが実感です。 任期の最終年には学長選考が行われ、私は令和6年4月1日(月)から再任される事になりました。再任に当たり、期する所は本学の教育・研究体制の再構築です。令和6年度から実施される薬剤師教育の薬学教育モデル・コア・カリキュラムは、3回目の改訂で極めて医療教育の色彩が濃くなりました。実務実習に関しても令和5年12月に、薬学教育協議会から発出された「臨床における実務実習に関するガイドライン」では、現行の22週の実務実習終了後、各大学で臨床に係る実践的な能力の更なる向上を図るために、学生の希望と大学が有する教育資源に応じて、8週間程度の病院又は薬局での追加実習を実施するよう努めることが明文化されました。本学では、6年制カリキュラムの開始時から、他学に先駆けて7つの独自特別実習コースを実施しておりますが、ようやく薬学全体の医療人が追いついて来たとの思いです。本学では、薬学科60名の増員に際して、地域枠入試制度を開始しましたが、同時に、従来の7つの特別実習コース修了者の中から選抜した学生に、4種類のアドバンスト教育コース(先端医療、薬学データ・サイエンス、グローバル薬剤師養成、感染症薬剤師)を設置し、更なる医療教育の充実を目指しています。 本学の特徴は、私立薬科大学の中で数少ない4年制生命創薬科学科を併設している事です。これにより本学では、充実した臨床薬剤師教育を支える基礎科学研究を大学院組織により維持しています。生命創薬科学科では、学部と大学院が連携したカリキュラムにより毎年約70%の学部生が本学の大学院に、5%前後の学生が国立大学等の大学院に進学しています。 コロナ禍が比較的短期的な大学教育への脅威であったとすれば、日本の人口構成の変化に伴う大学入学者人口の低下は、長期的な脅威であると言えます。日本の18歳人口は平成21年に約120万人でしたが、2024年現在で約106万人にまで低下しました。2040年には約88万人にまで減少します。この予測は経済予測などのように不確実性がある予測ではなく、毎年の出生数に基づいているので確実に実現する未来です。第2期の任期では呵責無き18歳人口の減少の中で、本学が創学以来122年間の歴史を継承し生き残って行くための教学組織の構築に専心して参ります。学長再任の挨拶
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