ご挨拶

半世紀にわたる医真菌学研究 ―伝統の継承と新領域への挑戦

明治薬科大学 微生物学研究室 教授 杉田 隆


 明治薬科大学微生物学分野における医真菌学研究の歴史は、1971年に深澤義村先生が順天堂大学医学部より当時の世田谷校に着任されたことから始まりました(1971-1980)。その後、東京大学医学部より岩田和夫先生が着任され世田谷校微生物学教室を主宰(1980-1985)。田無校微生物学研究室は、篠田孝子先生(現・名誉教授、1971-2001)が主宰され、その医真菌学研究は、西川朱實先生(現・名誉教授、1971-2013)と池田玲子先生(現・名誉教授、1978-2018)へと引き継がれてまいりました。そして1998年に田無校と世田谷校が清瀬に統合移転し、2013年より私、杉田が研究室を主宰し医真菌学研究を継続しております。医真菌学研究という点では、6代目となりますのでこれまで培われた伝統と歴史の重みを感じなら研究室運営に取り組み、繋いできた襷を確実に次代へ受け継いでまいるべく更なる研鑽に日々努めている次第です。

 1970~90年代はCandida症とCryptococcus症に対する血清学的診断法の開発に取り組み、その成果は体外診断薬として広く臨床の場に供されてきました。また、血清因子の認識部位(エピトープ)の化学構造を解析することにより診断法の科学的エビデンスを与えてきました。1990年代は、Trichosporonが夏型過敏性肺炎の原因となる抗原であることが発見され、その細胞壁の化学構造が解析されました。この頃から分子生物学が急速な発展を遂げ、医真菌学研究にも取り入れられるようになってきました。Trichosporonは夏型過敏性肺炎のみならず深在性真菌症も引き起こしますが、その主要な原因菌がTrichosporon asahiiであること、アトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎の原因菌がMalassezia restricta / M. globosaであることを示してきました。

 今日、取り組んでいる研究は、1) Malasseziaを中心とした皮膚マイクロバイオームの解析と微生物間の相互作用、そしてマイクロバイオームを制御することによる疾患制御、2)カイコ感染モデルを用いた CandidaTrichosporonを中心とした真菌の病原因子の解析や抗真菌薬の評価、3) 病原真菌のゲノム解析、4) 微生物研究を通した宇宙開発支援、5) バイオリソースとしての菌学、です。最新の成果はこのホームページで紹介してまいります。

 研究室には現在、薬学科(4、5、6年生)と生命創薬科学科(4年生)の卒論生、両専攻の大学院生約30名に我々スタッフなどを含めた総勢40名が在籍しています。これからも当研究室の伝統である医真菌学研究を継承しつつ、新しい分野にも積極的に挑戦しながら研究に邁進していく所存です。皆様のご指導ご鞭撻を宜しくお願い申し上げます。