平成27年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業

支援区分 研究拠点を形成する研究
事業名 認知症克服を志向する天然物創薬研究拠点の形成(S1511016)
研究組織名 認知症創薬資源研究開発センター
研究期間 5年



研究の目的と意義

本邦では認知症を罹患した高齢者は現在約462万人にも上ります。今後高齢化が急速に進み患者数が激増して、介護負担が爆発的に増加することが予測され、早急な対策が社会的に求められています。認知症疾患の中で、最も頻度が高いアルツハイマー病は、脳にアミロイドベータと呼ばれる異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞死が進行する原因不明の難病で、特効薬はなく約10年の経過で死に至ります。これまで、アミロイドベータ産生の抑制を目的として、種々のセクレターゼ阻害剤が開発されて来ましたが、市場に登場した薬はありません。従って、新たな創薬標的分子の発見および画期的な創薬シードによる早期治療開始が望まれています。

本研究プロジェクトは、認知症克服を志向した革新的創薬研究拠点の形成を目的としています。研究拠点として、認知症創薬資源研究開発センター(DRC)を創立し、次世代シークエンサーとバイオマーカー解析装置を導入しました。主任研究者5名が共同研究チームを組織し、高度先進的な創薬研究に取り組んでいます。化学系研究者は、過去に類を見ないタイ海洋群体ホヤ、皮膚常在真菌マラセチア、日本各地で採取した地衣類・キノコ・海洋真菌から、イソキノリン・ビフラボノイド・イソプレノイド化合物を抽出・精製し、多様な誘導体を創製してライブラリーを樹立し、全合成経路を開発しています。生物系研究者は、先端的スクリーニング系(iPS細胞や疾患モデルマウス)を用いて、次世代シークエンサーを駆使して、薬効および標的分子をゲノムレベルで解析しています。最も有望な抗認知症活性化合物については、製薬企業と連携して開発を進める予定です。



研究組織図




年次計画

平成27年度 創薬資源天然物を産生する海洋生物の主たる生息地は、太陽光エネルギーが豊富な熱帯・亜熱帯の海域です。齋藤はタイ海洋に生息する群体ホヤと青色海綿から、テトラヒドロイソキノリン化合物を精製し、多数の誘導体を合成します。杉田はヒト常在菌コレクションおよび極限環境微生物コレクションの菌体から活性画分を抽出します。小山は地衣類・キノコ類・海洋由来真菌からビフラボノイド・イソプレノイドを含む多数のエキスを抽出し、アミロイドベータ産生抑制活性を調べます。古源は数種類の脳移行性が高い認知症創薬シード候補化合物を全合成します。佐藤はiPS細胞やモデルマウスから神経細胞培養系を樹立し、創薬シード化合物のスクリーニング系を確立します。
平成28年度 齋藤は佐藤と共同で、前年度に合成した化合物の抗認知症活性を解析します。杉田は前年度に抽出した菌体画分中の活性化合物の構造をNMRやX線結晶構造解析で決定します。小山は前年度抽出したエキスに含まれる化合物の構造を決定します。古源は前年度に開発した合成ルートを用いて、多種類の化合物を全合成し、創薬シード化合物ライブラリーを作成します。佐藤は前年度に樹立した神経細胞培養系を用いて、化学系研究者が合成した創薬シード化合物の抗認知症活性をマイクロアレイや次世代シークエンサーで解析します。
平成29年度 齋藤は佐藤・杉田と共同で、青色海綿と共生微生物のゲノムを次世代シークエンサーで解析します。杉田は微生物由来化合物の抗認知症活性を解析し、培養条件を至適化します。小山は前年度に構造決定したビフラボノイド化合物の全合成を行います。古源は窒素複素環骨格化合物の迅速構築法を開発します。研究が順調に進行すれば、本年度までに有望な認知症天然物由来創薬シード化合物を数種類に絞り込むことが期待出来ます。
平成30年度 齋藤は前年度に明らかにした青色海綿と共生微生物のゲノム情報から、主要化合物の生合成酵素遺伝子群を同定します。杉田は次世代シークエンサーを用いて、皮膚常在真菌と極限微生物のゲノム解析を行います。小山は抗認知症活性化合物の標的分子を調べます。高取はさらに多数の創薬シード化合物の全合成を行います。佐藤は化学系研究者が合成した全ての認知症創薬シード候補化合物の生物活性の測定を完了させます。
平成31年度 研究の総括を行い、最も有望な新規化合物に関しては、日本医療研究開発機構(AMED)の新薬開発プログラムに応募し、製薬企業と連携して開発を進めて行きます。



研究による期待される効果

本プロジェクトが軌道に乗れば、(1)認知症の画期的治療薬や早期診断法の開発、(2)高度先進的薬学研究拠点となるDRCの整備、(3)次世代シークエンサーによる先端的ゲノム創薬研究領域の開拓、(4)本学の学術研究基盤を磐石化、(5)将来の創薬研究を先導する優秀な若手研究者を育成、(6)情報公開を通じて、研究成果の社会への還元を達成することが期待されます。


平成30年度より古源教授から高取教授に変更