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明治薬科大学
機能分子化学研究室

研究テーマResearch

 多くの医薬品が人工的に創られている現在、種々の化学反応が必要であり、より効率的、選択的で環境にやさしい反応の開発が望まれています。 我々の教室ではこれらを視野に入れ、新規反応の開発と反応機構の解明に焦点をあて、触媒反応、不斉反応を中心に次のようなテーマで研究を行ってきました。

1) セリノール誘導体のジアステレオ選択的不斉非対称化反応の開発と応用
2) 光学活性tert-ブタンスルフィンアミドを不斉源とするグリオキシル酸へのジアステレオ選択的アミドアリル化反応
3) ジヒドロキシアセトンを用いたPetasis反応の反応経路
4) N-ヒドロキシアミン類の使用により活性化されたPetasis反応
5) ペントースとフェニルボロン酸類とのPetasis反応
6) アミンのα位へのジアステレオ選択的ホウ素化反応
7) マンニッヒ型反応を利用した2,2-ジ置換インドリン-3-オンの新規合成法の開発と、天然物の合成への応用
8) 新規スルホニウム反応剤を用いたインターラプテッドプメラー反応の開発
9) 高効率的環形成反応を基盤とする、アルカロイドの合成研究
10) 新規不斉ペタシス反応の開発
11) 遷移金属触媒を用いる芳香族C−N結合変換プロセスの開発


1) セリノール誘導体のジアステレオ選択的不斉非対称化反応の開発と応用

 セリノール誘導体を塩化メチレン中でクロロギ酸2-クロロエチルと反応させ、モノ炭酸エステルとした後、DBUで処理すると、オキサゾリジノン体が高いジアステレオ選択性で得られることを見出しています。 ここで得られた各ジアステレオマーはR = Hの例以外では、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで容易に分離精製することができます。


 この反応での反応中間体として環状炭酸エステルを経由することが明らかになっています。この環状炭酸エステルを別途合成し、 このものをDBUで処理することにより、上記反応例と同様のジアステレオ選択性で定量的にオキサゾリジノン体が得られています。


 ここで得られた光学活性オキサゾリジノン体を合成中間体として、天然物やアミノ酸、生物活性化合物に変換することができます。


2) 光学活性tert-ブタンスルフィンアミドを不斉源とするグリオキシル酸へのジアステレオ選択的アミドアリル化反応

 グリオキシル酸とtert-ブタンスルフィンアミドから得られたイミンにアリルボロン酸ピナコールエステルを反応させることにより、アリルアミノ酸誘導体が1段階で得られることを見出しています。 このものの塩酸で処理することにより、高い鏡像体過剰率で光学活性アリルアミノ酸を得ることができます。


3) ジヒドロキシアセトンを用いたPetasis反応の反応経路

 ジヒドロキシアセトンはアセトン体としては異例のPetasis反応活性の高い基質となりますが、この反応において、Petasis生成物の環状ボロン酸エステルを形成することが明らかになりました。 Petasis反応の際にも分子内にイミンをもつ環状ボロン酸から反応が進行していることが示唆されます。


4) N-ヒドロキシアミン類の使用により活性化されたPetasis反応

 アセトインのPetasis反応において、2-フェニルビニルボロン酸ではアミンにN--ヒドロキシ基が必須ではないものの、4-メトキシフェニルボロン酸ではN-ヒドロキシアミン類の使用が必要であることを見出しました。 このことから、2-フェニルビニルボロン酸では環状のボロン酸エステルの経由が必須ではないものの、4-メトキシフェニルボロン酸では分子内にイミンをもつ環状ボロン酸の形成が必要であり、この形成によりPetasis反応が活性化されていると考えられます。


5) ペントースとフェニルボロン酸類とのPetasis反応

 アラビノースとベンズヒドリルアミン類とのPetasis反応で、2-フェニルビニルボロン酸では報告例にある通りPetasis生成物のボロン酸エステルは形成されません。 一方4-メトキシフェニルボロン酸ではPetasis生成物のボロン酸エステルが形成されることを明らかにしました。


6) アミンのα位へのジアステレオ選択的ホウ素化反応

 光学活性オキサゾリジノン体を不斉素子とした新規ホウ素化反応の開発を検討しています。


7) マンニッヒ型反応を利用した2,2-ジ置換インドリン-3-オンの新規合成法の開発と、天然物の合成への応用

 私たちは2位置換インドールの酸化で得られる2-ヒドロキシインドリン-3-オンが、酸性条件化下でイミニウムを形成し、様々な求核剤が反応することを見出しています。これまでにこの手法が天然に存在するアルカロイドを合成するために極めて有用な方法であることを 1)ヒンクデンチンAの全合成、2)イサチシンの合成研究、3)(−)-ロイコノキシンの不斉全合成で実証してきました。本手法の適用範囲をさらに拡張するため、次の研究テーマを行っています。

@上記不斉マンニッヒ型反応の不斉反応への展開
Aビスインドールタイプアルカロイド トリゴノーリイミン類の合成研究


8) 新規スルホニウム反応剤を用いたインターラプテッドプメラー反応の開発

 スルホキシドと酸無水物から調製される化合物1のイオウ原子に求核剤が反応し、様々な生成物を与える反応をインターラプテッドプメラー反応と呼びます。私たちは独自にジメチルスルホキシド(DMSO)から生成するスルホニウム反応剤を用いて分子間反応への展開に成功し、以下の3つの成果を得ています。1)インドール2α位への官能基化反応の開発、2)3a位置換ピロロインドールアルカロイドの合成、3)キラルスルホキシドを用いた不斉インターラプテッドプメラー反応の開発。 私たちはスルホニウム反応剤の新たな利用法を開拓するため、重金属酸化剤を用いないビアリールカップリング反応に焦点を当てて研究を進めています。


9) 高効率的環形成反応を基盤とする、アルカロイドの合成研究

 自然界には複雑な構造をもち、かつ新しい生理機能をもつ化合物(天然物)が多数あります。このような天然物を合成することは、新しい創薬ターゲットの発見や、より良い誘導体の開発において重要な基礎研究です。一方、既存の合成法においても工程数、収率や安全性などの点からさまざまな改善策が求められており、新たな手法を利用した効率的な合成戦略が必要となります。 私たちは1,3-双極子付加反応や金属触媒による環形成反応を用いて、天然物合成に適応可能で効率的な環形成反応を見出しました。この方法を用いて下記の天然物の合成研究に挑戦しています。


10) 新規不斉ペタシス反応の開発

 ペタシス反応ではカルボニル化合物とアミンから生成するイミン中間体へ、ボロン酸誘導体が求核的に反応して生成物を与えます。この反応は3種類の化合物を混ぜるだけという大変簡単な操作で、炭素−炭素結合形成ができる大変有用な方法です。近年、本反応においてキラルBINOLなどの不斉ビフェノール触媒を利用した、不斉反応の開発が活発に研究されています。私たちは、より身近に存在するアミノ酸や糖などのキラルソースを用いて、より実用的な不斉ペタシス反応の開発を目指して研究を行っています。


11) ロジウム(II)触媒を用いたN-HおよびC-Hアミノ化反応の開発

 ロジウム(II)触媒とヨウ素(III)反応剤から生成するロジウムナイトレン種は高い反応性を示し、様々な結合の間に窒素原子を挿入できるユニークな化学種です。特に不活性なC(sp3)-H結合への窒素原子の挿入は、医薬品や天然物の骨格として重要な含窒素化合物の合成に広く利用されています。一方でC(sp2)-H結合やヘテロ原子-水素結合への挿入はほとんど知られていません。
 これに対し、当研究室では、ロジウムナイトレンを用いた初のN-H結合への挿入反応を開発することに成功しました。得られたN-スルホニルジアゼンはさらにC-N結合の変換に利用できます。従来、このような変換には爆発性のジアゾニウム塩を用いるザンドマイヤー反応が利用されてきましたが、当研究室の手法はザンドマイヤー反応の安全な代替法となります。また、オルト位にホウ素をもつジアゼンは有用な反応中間体であるアラインの前駆体となることも見出しました。
 さらに、窒素上に2つのかさ高いアルキル基をもつアニリン誘導体とロジウムナイトレンを反応させることで、C(sp2)-H結合のアミノ化にも成功しました。通常、アニリン誘導体の反応ではアミノ基のパラ位で反応が進行しますが、本手法ではかさ高いアルキル基が置換しているにも関わらず、完全な選択性でオルトアミノ化体が得られるという、興味深い知見を明らかにしました。


12) 新規アライン前駆体の創出を基盤とする反応開発

 アラインは芳香環の二重結合の一つが三重結合となった高反応性化学種であり、親アライン体と呼ばれる化合物群との反応によって様々な化合物を与える有用な中間体です。アラインは不安定なため、前駆体と呼ばれる化合物から発生させて用います。用いる前駆体によって反応の条件や利用できる親アライン体が決まるため、より穏和な条件でアラインを発生する前駆体の選択が重要になります。
 最近、当研究室では新規アライン前駆体としてo-トリアゼニルアリールボロン酸の開発に成功しました。この化合物は簡単に合成でき、室温・空気中で一年以上保存可能な安定な固体です。それにもかかわらず、シリカゲルと混合するという極めて穏和な条件でアラインを発生するという興味深い性質をもつことを見出しました。現在、本前駆体を用いた新たなアライン発生法の開発や、本前駆体の特長を活かした新たな反応の開発を進めています。


 

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