化学構造による変異原性予測に関するコンペティションは
「Ames/QSAR International Challenge Project」
と言います。
まずはこのコンペがどんなものなのかをタイトルから紐解いて行きましょう。
最初にAmes/QSARとあります。
これは、Ames試験の結果をQSAR解析で予測するといった意味です。
International Challengeは国際的なコンペティションということですね。
Ames試験は、化学物質が変異原性を持つかどうかを評価するための実験的手法です。
この試験は細菌を使用し、特定の株(通常はサルモネラ属)に化学物質を曝露することで、その物質がDNAに変異を引き起こす能力を調べます。
変異原性があると考えられる化学物質は、がんや他の遺伝的疾患のリスクを高める可能性があるため、Ames試験は化学物質の安全性評価において重要な役割を果たしています。
一方、QSAR(キューサー)というのは定量的構造活性相関(Quantitative Structure-Activity Relationship)の略称です。
QSAR解析は、化学物質の構造と生理活性との関係から予測モデルを作る方法です。
Ames試験の予測法は大きく統計ベースと知識ベースの二つに分類されます。
統計ベース(QSARシステム):
化合物データセットから構造と生理活性の間のパターンを見つけます。
機械学習や統計的手法によって、化学構造と活性の間の量的関係をモデル化(数式化)します。
(当研究室ではこちらを得意としています。)
知識ベース(ルールベース・エキスパートシステム):
この手法では、特定の官能基や構造的特徴が生理活性に与える影響を今までに蓄えられた知識に基づいて予測します。
QSARに対してSAR(構造活性相関)として区別されることがあります。
統計ベースおよび知識ベースの予測法をICHガイドラインでは(Q)SARと表現しています。
コンペではこれらの両方の解析アプローチを使用した多様なモデルが投入され、その予測性能を競いました。
なお、このコンペは1stプロジェクト(2014年~2017年)と2ndプロジェクト(2020年~2022年)の二回実施されました。
1stプロジェクトではQSAR解析ソフトの開発を手がけている企業のみが参加しました。
私たちが参加したのは、アカデミア(大学や研究所)にも門戸が開かれた2ndプロジェクトの方です。