Ames/QSAR 国際チャレンジプロジェクトにおけるQSARの予測対象はAmes試験の予測結果です。
Amesの陽性/陰性の識別性能が判定されますので、参加者は陽性/陰性識別システムを使用してこのコンペに臨んでいます。
さて、QSARのターゲットとなりますので、プロジェクトで使用されたAmes試験の概要をまとめておきたいと思います。
Ames(エームス)試験は、生育に特定のアミノ酸が必要になるようになったサルモネラ菌、もしくは大腸菌の菌株を使用します。
次のような菌株です。
・ヒスチジン要求性サルモネラ菌変異株
・トリプトファン要求性大腸菌変異株
ちなみに、Ames試験に使用されるヒスチジン要求性サルモネラ菌はネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)変異株です。薬剤師国家試験にも出ています。
変異原性物質にさらされると、これらの変異を起こした細菌の一部が「復帰突然変異」を起こす可能性があります。
この突然変異は元の変異を復帰させ、細菌のアミノ酸合成能力を回復させます。
復帰突然変異の発生により、細菌はヒスチジン(もしくはトリプトファン)を含まない培地上で増殖し、コロニーを形成する様になります。コロニーの数が多ければ多いほど、被検物質の変異原性が高いことを示します。
Ames試験に使用される菌株にはいくつか種類があって、それぞれ異なる特性を持っています。
それでは、Ames/QSAR 国際チャレンジプロジェクトにおいて使用された菌株を見てみましょう。
2nd ProjectのTable 5によると、
TA100、TA1535、TA98、TA1537、WP2uvrAの5株でした。
これらがS9mixの存在下および非存在下でAmes試験に供されました。
S9mixというのはラット肝臓のS9分画のことで、肝ホモジネートを9000gで遠心分離することによって得られる上清分画です。この分画には、細胞質とミクロソームなどの細胞小器官のかけらが含まれていますので、CYPなどの薬物代謝酵素を容易に供給できます。多くの変異原性物質は代謝活性化されてはじめて変異原性を獲得することが知られていますので、Ames試験にはS9mixが用いられるのです。
次に、上記の5種類の株の特徴を見ていきましょう。1,2,3)
点突然変異に鋭敏
TA100:サルモネラ菌の復帰変異株
TA1535:サルモネラ菌の復帰変異株
WP2uvrA:大腸菌の復帰変異株
フレームシフト変異に鋭敏
TA98:サルモネラ菌の復帰変異株
TA1537:サルモネラ菌の復帰変異株
これらの5種類の株が±S9mix条件下でAmes試験に供されましたので、1化合物あたり10種類の試験結果が出てくることになります。
これらの試験結果より、主催者は12,134化合物に対する判定結果を参加者に提示しました(第2回プロジェクト)。
Ames試験の測定結果は化合物毎に、
クラスA(強い変異原性あり)
クラスB(変異原性あり)
クラスC(変異原性なし)
の三段階で定義されました。
そして、クラスAとクラスBが「陽性」、クラスCが「陰性」として提示されました。
第2回プロジェクトの参加者は、これらのAmes試験の結果とともに別途供給された化学構造情報を使って陽性化合物と陰性化合物の識別モデルを構築しました。
なお、ルールとしてこれ以外のAmes試験のデータの使用も許可されていました。