第一回および第二回Ames/QSARコンペティションの結果は論文の形で公開されています。
タイトルを邦訳すると、
第一回は「Ames変異原性予測のためのQSARツールの改善」
第二回は「変異原性予測のためのQSARモデルの評価」
といった感じです。
今回はこれらのAmes/QSARコンペティションの背景について述べたいと思います。
医薬品にはその製造工程において様々な不純物が生成し、製品に混入する可能性があります。
中には、変異原性(DNAに対する反応性)を有する不純物だってあるかもしれません。
変異原性物質が体の中に入ると癌を誘発するかも知れませんのでとっても嫌です。
そこで、変異原性をチェックして、こういう場合にはこういう風に対処しましょう、といった国際的なガイドラインが作られています。
作っているのは医薬品規制調和国際会議(ICH)という医薬品の開発や規制のための技術的要件を国際的に調和させることを目的とした協議会です。
ICH M7ガイドラインというのが変異原性の評価と管理のガイドラインの名称です。
このガイドラインの中で、実験結果が既知では無い物質の変異原性評価には(Q)SARを使いましょう、(Q)SARでAmes試験の予測結果が陰性であればそれ以上の実験はしなくて良いよ、と記載されました。
ただし、(Q)SARモデルには前回解説した統計ベースと知識ベースの両方を使うことが条件です。
さらに、OECDのQSARバリデーション原則というのがあって、それに準拠しなければなりません。
OECDのQSARバリデーション原則は次の通りです。
1:定義されたエンドポイント
2:曖昧でないアルゴリム
3:定義された適用可能領域
4:モデルの当てはまりの良さ・頑健さ・予測可能性に関する適切な指標
5:可能ならば、反応機構の面からの解釈
Ames/QSARコンペティションでは主に3と4の部分が評価対象になっていたと考えることができます。
(これに関しては後述する予定です。)
ただ、いろいろ注意深く制限をかけてはいますが、医薬品の規制にQSARを使用するというのはちょっとスゴいことなのです。
何故かというと。QSARをはじめとする計算に基づく生理活性予測には誤差がつきものだからです。
そこで、今使われているAmes予測ツールはどの位当たるのか?というダイレクトな疑問に答えるために企画されたのが第一回のコンペティションだと考えられます。
そして、さらにQSARモデルの開発を促進するために門戸を広げて実施されたのが第二回コンペティションということになります。