計算毒性(安全性)学に関する研究 | 明治薬科大学 医療分子解析学研究室

計算毒性(安全性)学に関する研究

趣旨

薬効・毒性・副作用といった薬物の生理活性は、薬物の化学構造に規定されていると考えることができます。化学構造を数値化し、生理活性との関係をモデル化する方法に定量的構造活性相関(QSAR)解析法があります。

医療分子解析学研究室では、有機合成および薬理学のエキスパートとの共同研究により、多様な化合物群の抗腫瘍効果、抗ウイルス作用、および安全性を評価してまいりました。強力かつ安全な医薬品シード化合物を検出するQSARモデルの構築に成功してきたことから、これらを用いた今後のさらなる研究の発展が期待できると考えられます。

趣旨

薬剤性肝障害予測システム

薬剤性肝障害予測システム「DILI/MIE-QSAR (プロトタイプ)」を公開しました。当研究室では創薬シーズの適切な毒性評価を目指すAMED創薬支援推進事業「創薬支援インフォマティクスシステム構築プロジェクト」において、化学構造を用いた薬物性肝障害誘発薬物の識別モデルの構築を担当してきました。薬物性肝障害は心毒性とともに医薬品の市場撤退における最も重要な要因であることが知られています。医薬品候補化合物の肝毒性は創薬早期において識別が望まれる特性の一つであると考えられます。前臨床試験を実施する前に肝障害を誘発する可能性が看破できれば、創薬過程におけるドロップアウトや上市後の臨床的アクシデントを防止することができると考えられます。特に、化学構造からの予測は創薬の最初期に適応できるためにリード化合物のフィルターとして有用です。しかし、このモデル構築においては、肝毒性の有無が明白な化合物が限定的、発症機序の解明が不十分、化学構造と肝毒性の関係が多様・複雑である、といった問題点がありました。そこで、米国FDAが構築している副作用データベースFAERS(JAPIC AERS)を用いて肝障害誘発薬物を定義し、肝毒性のエンドポイントを設定しました。一方、米国Tox21プロジェクトが公開している59種類の核内受容体・ストレス応答パスウェイの活性値に対する予測モデルを構築し、FAERS収載医薬品の予測値を得ました。これらの情報を統合し、核内受容体等の活性情報を化学構造記述子とともに機械学習に供することによって肝障害性の予測を達成しました。この薬物性肝障害予測システム(プロトタイプ)は、核内受容体等の活性予測モデルとともにウェブ上に公開しています(https://dili-toolbox.nibiohn.go.jp)。本システムでは広範なケミカルスペースにおける核内受容体等に対する応答と医薬品ケミカルスペースにおける肝毒性の予測が可能であることから、多方面における活用が期待できるものと考えています。

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